大野結也の広島小説と修道物語

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大野結也|広島大学の坂道で拾った、風に消える言葉

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大野結也|広島大学の坂道で拾った、風に消える言葉

大野結也のコラムです。広島大学のキャンパスには、いくつもの坂道がある。私は取材の帰りにそのひとつを歩いていた。夕方の風が強く、木々の葉がざわめいていた。坂の途中で、ひとりの学生がノートを開いたまま立ち止まっていた。


ページが風にめくられ、彼は慌てて押さえた。風が強い日は、書いた言葉が全部飛んでいくんです。彼は笑った。彼は広島に来てから、毎日坂道で日記を書く習慣を続けているという。理由を尋ねると、少し照れたように話し始めた。坂って、立ち止まる理由になるじゃないですか。平地だと歩き続けちゃうけど、坂だと息が切れて、自然と止まる。その止まる時間が、彼にとって大切なのだという。日記には、授業のこと、友人との会話、ふと感じた不安や期待が綴られていた。でも風が強い日は、書いたそばから言葉が消えるんですよね。ページがめくれて、インクが乾く前に飛んでいく。


彼はノートを閉じた。でも、それでいいんです。残らない言葉もあっていい。風に消える言葉って、なんだか軽くて、気持ちが楽になる。坂の上から吹き降ろす風が、彼の髪を揺らした。消えていった言葉たちは、きっと彼の中にだけ静かに残っているのだろう。