広島の川沿いで見つけた、影を描く画家の午後|大野結也の小説
広島の川沿いで見つけた、影を描く画家の午後|大野結也の小説

広島の川沿いは、午後になると光が水面に反射して美しい。私は取材の帰りにその道を歩いていた。すると、川辺にイーゼルを立てて絵を描く青年がいた。彼はキャンバスに向かい、筆をゆっくりと動かしていた。描かれているのは風景ではなく、川沿いに伸びる影だった。影って、形が決まってないんですよ。彼はそう言った。彼は広島に来てから、影ばかり描くようになったという。
理由を尋ねると、少し考えてから話し始めた。影って、誰のものでもないじゃないですか。人の姿を借りてるだけで、実体がない。でも、確かにそこにある。彼は筆を置き、川の流れを見つめた。広島の影は、柔らかいんです。光が水に反射して、影が揺れる。揺れる影って、なんだか人の気持ちみたいで。彼はキャンバスを少し傾けた。描かれた影は、川の光を受けて淡く揺れていた。影を描くと、自分の気持ちが整理されるんです。
形がないものを描くと、形のある悩みが小さくなる。彼はそう言って筆をしまった。川沿いの風が吹き抜け、影がゆっくりと伸びた。その揺れは、彼の午後を静かに彩っていた。